地方分権と官製不況から見た都条例の話

ついに通ってしまった都条例
ファンやクリエーターだけではなく大手の出版社が足並みをそろえて都主催のイベントへの拒否を行ったのはシャレにならない話である。あえてこの都条例を表現の自由の立場ではなく、「官製不況」としての都条例という視点から考えてみる。

官製不況とは、まあ弱者保護に偏りすぎた規制を行うことでビジネスがシュリンクしてしまう、という話である。耐震偽装に端を発した建築基準法改正と、それによる建築業界の混乱や景気の悪化というのは記憶に新しい。またサラ金規制も結果としては闇金の跋扈を煽った面もあるし評価が難しいところである。またPSE法騒動や水質汚濁防止法によるかけながし温泉弾圧論も、規制の誤爆という意味では批判される面が大きい。またこんにゃくゼリーのみを目の敵にした規制というのも、食べ物のリスクを総合的に考えない愚かな規制である。

都条例も、これはでは自主規制である程度はゾーンニングが出来ていたところに、屋上屋をかけるように規制を行うことが反発を招いている。もし規制に引っかかれば書店での取り扱いが難しくなり、実質的に流通から閉め出されてしまう可能性があり、実質的な発禁処分となり、結果として表現の萎縮が起こる可能性がある。また規制する側とされる側でのある種の信頼関係というか規制の根本思想の共有というのは、効果的な規制や政策目的の達成には必須であるが、その辺もあまり図られているとはいえない。

国が法律を作る場合には省庁内での検討や与党での検討、国会での審議など多くの過程を経ることで、あるいはそこで批判を受けないように事前に徹底的に議論を重ねることでブラッシュアップが図られる。しかし、地方においては首長の権限が大きい上に、行政府として、さらにシンクタンクとしての都道府県庁の能力は中央官庁に対して大きく劣る。また議員も質という意味でも、国会議員と地方の議員ではここの議員の経験や政党の組織内のシンクタンク機能の面で大きな差がある。その辺を考えると、地方で作られる条例のほうが拙速で弊害に対しての検討が不十分であるということが考えられる。

たとえば秋田県では訪問販売禁止令にも近い規制案が検討されている。
官製不況、今度は「地方版」:日経ビジネスオンライン
http://business.nikkeibp.co.jp/article/topics/20080711/165148/
消費者保護か経済かで揺れる「飛び込み営業禁止条例」の行方|inside|ダイヤモンド・オンライン
http://diamond.jp/articles/-/5511
これらもやはり関係する業界の意見を無視した拙速な規制といえるだろう。
また新潟県加茂市ではしまむらを狙い撃ちにした条例を作り、県の認可をうけて店舗を拡大したしまむら刑事告発し、県警には否定的な見解を示されてしまった。
しまむら」狙い撃ち 「刑事告発」条例は異例 (1/2) : J-CASTニュース
http://www.j-cast.com/2009/12/21056669.html
売り場面積増床規制(12/22,1/31追記あり) - sunaharayの日記
http://d.hatena.ne.jp/sunaharay/20091218/p1
あと世紀末前阿久根市長伝説などもまた味わい深い。

都条例の話に戻ると、業界の意見を聞き入れないばかりか、自主規制でゾーンニング済みのマンガを「こんなものが野放しに」と虚偽の情報をもって関連団体を説得するなど常軌を逸した行動をしている。まさに官製不況地方分権の悪いところばかり組み合わせたものとなってしまった。

これは東京でお仕事をするおじさまがた、いや日本全国で仕事をするすべての人に降りかかる可能性のある厄災である。ある日、あなたの会社が首長の目の敵にされて、市民すべての憎悪を背負って仕事できなくなり路頭に迷う、そんなことがあるかもしれない。都青少年健全育成条例の運用や再度の改正などは、日本の自由な経済活動にとっての試金石である。