スクールバス型?遊園地のライド型?過疎地のローカル線の生き残る術。そして県営鉄道へ

この地震により多くのローカル線が壊滅的な被害を受けて、その復旧もままならない状況である。以前に述べたようにローカル線の存在価値って何なの、ということを整理した上で色々考える必要がある。
ローカル線で明確に価値があるとして残っている路線は、その価値でいくつかに分類できる。

まずは地方都市近郊で通勤通学輸送で大きな役割を持っている路線だ。これはダイヤを見れば朝ラッシュに結構な本数が出ていることでよく分かる。近郊の住宅地の中に新駅を作るなど自治体と連携して大攻勢をかけている。IGRいわて銀河鉄道では新駅や朝ラッシュに盛岡口10分おきにするなど積極的な動きをしているが、地方都市の通勤路線としては的確な施策であろう。また富山市は合併し巨大化した市域をつなぐ動脈として、高山本線の富山口を補助金を出して30分サイクル化した。

また通学に特化したローカル線というのもある。留萌本線で発生した高校生の積み残し騒動などに代表されるように、通学圏の広い高校生を高速でかつ大量に輸送することにおいて必須となっている路線は結構ある。くま川鉄道では、乗り入れしてきていたJRの急行列車の車両まで動員して通学列車を走らせていたが、その急行列車が廃止になったために、改めてJR九州から車両を譲渡して輸送力を確保している。樽見鉄道では、貨物輸送を行っており機関車を所有していたことを利用して、JR東海から客車を譲渡してもらい、高校生のための輸送力列車と観光時の臨時列車に活用していた。スクールバスは一台に付き運転士は一人であり、通学者数を一台の定員で割った数だけの運転士が必要となるが、鉄道の場合にはどんな長大編成になっても、運転士と場合によっては車掌が乗務するだけで済む。というわけで、今あるインフラでなんとかする、という意味ではローカル線を残存させて赤字補填したほうがコストが安い、という判断もあるのだろう。地域の学区や高校の統廃合で利用者数が激変してしまう、ということもままある。

また鉄道自身がある種のテーマパーク、あるいはそのライドとしての立ち位置をもっている例も多い。一番著名な例は大井川鉄道である。また首都圏近郊ではトロッコ列車で有名になりつつあるわたらせ渓谷鐵道などがある。
トロッコ列車が走ってる所なんかはその最たるもの。ぬるぽ線トロッコガッ号で回る紅葉の旅バスツアーって企画があって、駅前にバスが入れる駅同士をトロッコ列車に乗ってもらって、それ以外は道の駅や物産館や博物館なんかを引きずり回す。そんで地域としては観光客が増えて収支がとれているわけだな。

で、ライド型ローカル線に求められる要素は何か?
まず観光バスが大量に乗り入れられて雰囲気がいい駅が重要である。トイレも大量に必要だし、応対する駅員も必要だし、物産館もあればよし。トイレは自治体が整備し、本社のある駅だと社員総出で対応だ。鉄道でのアクセスじゃないから乗換駅の必要はない。わ鐵の大間々とか大井川鉄道の新金谷なんかは本社や車庫のある駅であり、これだとトロッコ列車発着の時だけ人集められるし機回しも可能。
あとこういう駅にスムーズに大都市圏からの高速道路やICから先の幹線道路網などアクセスに関して道路整備が求められる。しかも観光バスが空でトロッコ列車を追いかけないとだめだから、並行道路も観光バスが大挙して走っても快適に走れることが重要。そういう意味では並行道路の整備は鉄道の生存にはプラスになることもある。
さらには沿線やその地域に名のある施設が必要。わ鐵にとっては富弘美術館、木次線においては足立美術館とかな。あとわ鐵の場合には日光に抜けてしまう、という方法もいいな。

JR東日本の副社長からJAXAの初代理事長となった山之内秀一郎氏は、生前講演で「ローカル線を残す理由として公共性を上げる人は多いが、田舎のガソリンスタンドのほうがよほど公共性がある」と指摘した。まあ確かに車の免許さえ持っていればそういうことだろう。そもそも都会の人間からすれば、なぜ払った運賃の一部が知らないローカル線の赤字補填に当てられるのか、という疑問は当然のことである。近鉄でいえば、養老線伊賀線の特に通学定期の利用者は特急料金をボラれる奈良府民に足を向けては寝られないはずだ。

これらの問題に関して、ローカル線の諸々の便益を判断するのはどの範囲でか、といえばまあ都道府県の範囲で考えるべきことであろう。たま駅長で有名な和歌山電鉄でも、廃線にしてバス転換すると並行する道路がパンクするので、非利用者にも便益があるからと、自治体が支援に乗り出した経緯もある。バイパスの整備に比べれば安上がりではあるな。先に述べたような広い視野での損得勘定、というのはまさに県や旧郡レベルの規模を持つ市がする仕事である。

さて、JR東日本は雄々しく被災した路線の復旧を宣言したが、あくまでも復興とリンクさせて、といっている。無人地帯になっちゃうならやんないよ、あるいは集団移転するから、その事業費の中で移設コストも負担してね、という含みを残しているのであろう。三陸鉄道三陸の復興の中でどのような位置づけをするか、ということを決定してから本格的な復旧になるのではないだろうか。復旧に要する資金は復興資金の中から取り分けるのだから、なぜ復旧するのか、という明確な戦略が必要である。幸い、鉄建公団系の路線は山側を走ることが多いので、集団移転地が沿線になる可能性も高い。